のため


幸せそうな友人の姿に思わず頬が緩む。流石に彼と同じ大学に行こうと言いだした時はどうするものかと頭を悩ませたが、彼女の決めたことを頭ごなしに否定するつもりはないし、それで勉強に身が入ってくれるのならそれでもいいように思えた。愛しい友人の幸せそうな姿を見るのは何より幸福で、参考書と一緒に置かれたポッキーを口元へと運びながら、ノートにシャーペンを走らせる。問題の答えが分からないのか悩ましげに眉を寄せる彼女の姿を見るとどうにも微笑ましくて、唐突に言葉が零れてしまう。ただの独り言。普段なら気付かないのに、こういう時ばかり気付いてしまう彼女が少し恨めしい。

「…私ね、王子様が好きなのよ」
「王子様?」
「あんたの彼氏とか理想的。成績良いし、経済力ありそうだし?まぁ味方によっちゃ、うちの委員長様も有りっちゃ有りだけど」
「と、取っちゃダメだからね!」
「分かってるよ。取ったりしないから」

取る訳がない。彼女の幸せを邪魔する存在がいるならばむしろこの手で潰してやりたいのに、その存在に自分自身がなるなど有り得ない。ノートの隅に小さく似顔絵を描く。

「顔は良いのに、な」


「なんでもない。あそこの二人は癒し系でお似合いだなぁ、と思いまして」
「あ、そうだよね。私も思った」
「そっちもお似合いだけどね。…どっかに良い男でも転がってないかな」

「…男らしさが足りないのよ、ばーか」

だから安心して後輩と一緒に並ぶ姿を眺めることが出来る。
季節は冬。受験戦争真っただ中。うさぎの耳当てとブランド物の長財布。遠くにある幸福と近くにある幸福を並べて願うことはただ一つ。優しい彼が幸せでありますように。