風化風葬

「有難うございました。」


挨拶を交わしてベンチへと戻る。
負けたゲームは無し。
ストレートに勝利だ。
といってもこんなことは例年通りで喜ぶべき事というよりも当たり前の事だった。
切原は小さく溜息をついた。


(結局来ないじゃないかよ…)


辺りを見回してもそこに弥生の姿がない。
前回の練習であれだけ関東大会には応援に行くと言っていたのにも関わらず。
ベンチに座る姿も見かけなければ、後姿すらも見かけられなかった。
都大会同様にサボったのか。
もしかすると風邪でもひいたのかもしれない。
よく分からない感情に支配されながらも切原は真田の方へと向かった。


「真田副部長、これからどうするんっすか?」
「予想以上に早く終わったからな…時間が余ってしまったか。」
「いや、これも全部予想出来たことだ。」
「参謀のデータにはいつも驚かされるな。」
「まぁな。それでだ弦一郎、折角なんだ青学と氷帝の試合でも見に行かないか?」


それもそうだな、と真田副部長は頷いた。
それに俺も賛成する。
このまま帰ってしまってはどうも味気ない。
そういえばギャラリーの数が少ない。
きっと青学と氷帝の試合が白熱しているのだろう。
さっきから周りのざわつきから時たま手塚やら跡部やらといった単語が聞こえる。


「今の時間ならシングルス1の跡部と手塚の試合だろう。見ておいて損は無い。」
「なら皆で…いや、行くのは俺と柳、それに赤也だけでいい。」
「はぁ!?何でそうなるんだよ。ずるいじゃねぇか。」
「丸井やジャッカル達には幸村の病院へ行って、あいつに今日の報告をして欲しい。」
「そういう事なら仕方がありません。では私達は幸村君の病院へ行くとしましょう。」


さすが柳生先輩。
文句ひとつ言わないのが紳士的な対応だ。
それに比べて丸井さんときたら…明らかに不満そうに眉間に皺を寄せている。
一言で言えば納得できない、といったところか。


「でも赤也だけ見に行くっていうのが気に食わねぇ。」
「どういう意味っすか、それ。一応これでも立海大期待のエースなんですからね。」
「英語の赤点エースの間違いじゃろ。」
「まぁ…仁王の言うことにも一理あるな。」
「ジャッカルさんに言われたくありませんよ。」
「全くだ。」
「おい、お前達こそ、それはどういう意味だ。」