神田夢。痛い、痛い、痛い。
まぁいいや…。
通常の思考の方は読まないで下さい。
ささめちゃんに捧げます。
デフォ名はどうしようかな…ミシェルでいいか。


朝が嫌いだった。正確には朝が嫌いなのではない。朝がもたらす終わりが嫌いだった。ミシェルはゆっくりと目を開けた。ベッドから手を伸ばして窓にかかったカーテンを開ける。教団の立地が悪いのか朝日なんて物は入ってこない。カーテンを開けたところでミシェルの部屋の明るさが変わる訳ではなかったが、更に手を伸ばしてもう片方の窓にかかったカーテンを開けた。


「んっ・・・」


自分では無い他人の存在。(今日は珍しく居たんだ。)いつもならばすぐに気付いたであろう彼の存在もさっきまで寝ていた所為なのか、それとも彼が居るはずがないと思い込んでいた所為なのか、否もしかすると両方なのかもしれない。ミシェルは「おはよう神田。」と呟いた。そして軽く神田の右目に唇を落とす。肝心の神田はまだ目覚めていないようでぼんやりとミシェルの顔を眺めた。低血圧なんだね、とミシェルは笑う。何度も同じ夜を過ごした事はあったのに今まで同じ朝を過ごしたことがなかった。そんなミシェルにとって普段人前で寝たりはしない神田の寝起き姿というのは新鮮なものである。


「今日は任務はないの?」
「無い…無いからここにいる…」
「そっか。」


その言葉が嬉しかった。起きるのが勿体無くなって、再度ベッドの上に体を沈めた。神田の方に体を向ければ必然的に彼の長い髪に体が触れてしまう。真っ黒の髪。昔の表現をするならば烏の濡れ羽色。自分と同じ色なのに何故こうも差が出てしまうのだろう。ミシェルがそれが不思議でたまらなかった。神田と同じくらいの長さをもった自分の髪はよく見れば(よく見なくてもだが)枝毛や切れ毛が所々に見える。不思議と同時に羨ましくってたまらない。神田の髪に指を絡めてみる。指に絡まることは一度もなく探しても枝毛は一本も見つからなかった。こんな髪なんだ、トリートメントをちゃんとしてるに違いない。


「なぁ…ミシェル、きょ…」
「ごめんね、私これから任務。」


神田の言葉を遮ったのに意味がある訳ではない。神田との事後の甘い会話なんて神田がトリートメントをしている風景よりも想像がつかない。私たちの間に愛はない。それで充分だと自分で理解している。いつ死ぬか分からないエクソシストなんていう職業なのだから、こんなドライな関係が一番だと分かっている。だから私はちっともこっちを見ない神田に怒りだとかそういった感情を抱いたりはしなかった。(だけど分かっているのと望んでいるのとは違う)(私は神田のことを愛しているし、神田に愛されていることを望んでいる)


「まだ寝ててもいいから。」


返事はない。だけどそれで良いと思えた。ベッドから下りて床に放り投げたままになった下着と団服を手に取った。どうせ神田がこっちを見ないことくらい知っている。目の前に裸の女が居るのだから少しくらいは顔を赤らめるくらいの可愛さが欲しい、なんて事を思ったが神田が顔を赤らめると様子を想像して止めた。似合わない、気持ち悪い、死ねばいいのに。小さく「じゃあね」と言ってからミシェルは鏡台の上に置いてあった銃を手に取った。金属独特の冷たさが頭を覚醒させる。


「帰ってこいよ。」


返事はしなかった。違う、声が出なかった。何故か泣きそうになる。こんなに感傷的になってしまうのは大嫌いな朝が来たのに神田がまだ側にいた所為だと思った。ミシェルは部屋の扉を開けた。本当は少し、そうほんの少しだけ、振り返って無事に帰ってくるから、くらいの返事をしたかった。だけど止めた。ここで返事をすれば女が廃ると思った。




朝が始まる
(貴方の言葉だけで頑張ろうと思えた)(大嫌いな朝も別れも乗り越えられる気がした)