リモコン。

なんかごちゃごちゃと難しいことを語るお話です。
4話からなる連作っぽいもの?


Ⅳ 廃棄
僕には"カミサマ"がいる。正確には"カミサマ"っていう名前じゃないけれど、僕は彼女を"カミサマ"と呼んでいる。彼女は博士が最高傑作だと言ったロボットであり、この世で一番美しいお人形でもあった。この実験が終わったら僕たちの苦労の成果が認められるとあまりにも博士が嬉しそうに言うので僕は彼女を"カミサマ"と呼ぶことにした。博士が彼女に名付けたクランチェスカって名前は彼女にぴったりな気もするけど、でも僕は"カミサマ"と呼ぶことが一番好きだった。何故だか分からないけど、でも"カミサマ"以外の呼び方を僕は思いつかなかった。


「ねぇ、カミサマ。」
「何?」
「廃棄処分になるって悲しい?」
「マスターの決定を悲しいと思う理由はないわ。」
「だけどカミサマが廃棄処分されちゃったら僕は悲しいよ。」


カミサマは今日、廃棄処分される。理由は三日前の実験に失敗したからだ。カミサマが言うマスターは僕が言う博士のことで、マスターと呼ばれる博士がほんの少し羨ましかった。だけどほんの少しだ。カミサマは博士相手だと堅苦しい口調した使わないし形式的な事しか言わない。だけど博士の助手である僕には普通の話し方をしてくれる。だから僕はちょっとだけ博士に優越感。お嬢様みたいにお上品に喋るカミサマの声が好きだった。だけどそんなカミサマの声はもう聞けなくなる。


「カミサマ、本当のことを教えてよ。実験は成功したんでしょ?」
「失敗よ。マスターが失敗したって言ったわ。」


だけど本当は僕は知ってるんだ。カミサマは実験を成功させたって。実験は簡単な物でカミサマと博士と僕が同じ部屋に入る。他から何の影響も受けないように構造された部屋だ。カミサマは特殊な電気信号を使って人を操る。ただそれだけの実験。実にシンプルだ。カミサマはあの綺麗な黒い目で僕をじっと見て笑う。何だか嬉しくなって天にも昇る気持ちになる。何故だか踊ってしまった。これがカミサマの力。だって僕は踊るつもりなんてこれっぽっちも無かったんだもの。だけど博士は怒った。ちゃんと力を使って操るんだって。僕は操られているのに博士は気付いていない。博士は怒る。だけど失望したようにうな垂れた。実験は失敗だと一言だけ残して部屋から立ち去っていった。


「博士の目にはね、僕が突っ立ってるようにしか見えなかったんだって。」
「じゃあ実験は失敗ね。」
「だけどね、僕はあのとき踊ってたんだ。」
「でも博士にとっては失敗だったのよ。実際にどうであろうと関係ないわ。」


でもねカミサマ、僕は思うんだ。あの時カミサマは博士も操ってたんじゃないかなって。だって博士はカミサマに誰を操れとは詳しく指示してないんだもの。僕を操っても僕がわざと動いてるのかもしれないって博士が疑うことを考えて、賢いカミサマは博士を操ったんじゃないかな。少し考えれば分かるはずだもの。僕がただ突っ立ってるはずがないって。普段の僕なら何も起こらなければ言葉の一つや二つ呟いてるって。




(中略)




だけどねカミサマは僕は思うんだ。この目の前の映像さえカミサマの作り出した偽物じゃないのかって。本物のカミサマはもっと遠くにいるんだ。僕と博士の視覚を操ってしまえばそんなことは簡単だと思う。ねぇ、カミサマ。カミサマは本当に廃棄処分されちゃうの?カミサマはどんなに綺麗で賢くて凄くても所詮はロボットでお人形でしかないから、命令以外のことは出来ないの?
でもね、僕は時々思うんだ。博士がカミサマを操ってるんじゃなくって、カミサマが博士を操ってるんだって。カミサマに操られた博士がカミサマを操るんだって。やろうと思えば可能だったと思う。カミサマは賢いんだもの。色んなことが出来たと思う。どっちだろうね。博士がカミサマを操ってたのかな?カミサマが博士を操ってたのかな?僕にはそれが分からないよ。