身内

15:45


光が収まり、さうの靴にはそれぞれ二個の車輪がついていた。僅かなモーター音をさせるそれを見て、華南は小さな声で「ふぅん」と零した。そしてカードを二枚宙へと投げる。一枚はその場に静止したまま、そしてもう一枚はさうの時と同様の光を放ちながら、華南の手の中へと収束される。彼女の背丈をくらいはあるであろう柄の先には大きな刃がついていた。それは巨大すぎる程の鎌だった。


「そっちがその気なら容赦しないよ?」
「容赦も何もこんな物が多い場所でそんな大きな鎌振り回せる訳がな…い…?」


何かが掠めた。服の切れ端が宙をフラフラと浮いていた。さうと華南の間には障害物は何も無かったが、しかしそれでもあの長さの鎌を振り回そうとすれば後ろに置かれた物に当たってしまうだろう。まさかなぁ…なんて思いながら誤魔化すようにアハハと笑えば華南もウフフと笑い返す。勿論二人とも目は笑っていなかったのだが。


「何を振り回せないって?」
「すみません、勘違いでした、俺が悪かったです!」
「じゃあ大人しく切断されちゃってよ。後でちゃんと縫合してあげるから。」
「それは嫌…!」


しかしそんなさうの言葉を気にせず華南は鎌を振るった。鎌の刃、そして長い柄はそこらにあるものをすり抜けていく。今まで戦闘は屋外が多かったのでその様子をさうは初めてみた。こんなの有りかよ!と小さく悪態を吐きながら靴についた後輪を唸らせ、一気に後ろへ移動した。僅かな音も立てずに華南の鎌はさうの居た場所を切った。そんな二人の間の空間が揺らいだ。渦が出来、しばらくすれば何かが映し出される。平面状の存在が何時の間にか立体へと変わっていた。


「さう、助けに来たよ!」
「助かった…!」
「2対1?卑怯じゃない?」
「喧嘩とテトリスに卑怯もクソもないわ!!」
「ささめ…テトリスは関係ないから」


ささめが手で握り締めていたカードを宙に投げる。光が形を形成し、ささめの腕の中で人形となる。ゴシック調の黒いワンピースを身に纏った金髪の人形。目は両目共に閉じられていて瞳の色は分からない。


「いくら華南とはいえ、2対1では流石に勝てないはず。」
「…二人とも攻撃系のカード持ってないのに?」
「痛い所付くな。」
「認めるなよ、さう。とりあえず行くよ…!」