それさえも・・・

「はいはい皆さん、起きて…っていうか起きろやこら。」


何となく見たことのある顔だ。
ぼうっとする頭の中で眉毛はそんなことを考えた。
名前は出てこないが、言われればあぁと納得してしまうだろう。
A組でよく見かけて、MCにもよく現れる。


「今日は私、水城那智琉が説明を担当させていただきます。」
那智琉ちゃん!?」
「そうです、那智琉ちゃんです。やっほー華南、気分はどう?」
「どうって…ここはどこ?」


女帝さんがもっともな質問をした。
あぁそうだここはどこなのだろう。
麻痺してしまった頭ではそれさえも考えつかなかった。
目の前の新人はさっきから何やら首元を気にしているが、そこはやはり新人だ。
自分の髪にすら感じてしまっているに違いない。



「ここはどこかにある島の廃校です。それで、これから皆さんには殺し合いをしてもらいます。」
「…那智琉ちゃん、真面目に答えてくれないと私怒るよ?」
「ごめんね華南。華南の命はうちの手の中にあるから逆らわない方が身の為だよ。それと…あー、同じクラスの新人君だっけ?」
「えっ俺?」
「首あんまり触らん方がいいよ?爆発するから。」


爆発!?
その言葉に唖然とする。
それにその前に発せられた殺し合いという言葉。
全ての言葉が現実味に欠ける。
夢でも見ているのじゃないかと思った。
しかし気付けば首には確かに何かひんやりとした物体だある。
よく目を凝らせば新人の首にも、斜め前にいる凪良の首にもそれはあった。


「ルールの説明、っていってもほとんどないんだけど。つまり皆でBRをしてもらう訳です。」
「BR…ってあの?史上最悪の椅子取りゲームで、小説とか映画化とかもされてる…」
「あぁ、そういえば凪良は原作持ってるんだよね。私も持ってるけど。まぁルールはそれとほとんど同じだから安心してね。」
「待ってよ、那智琉ちゃん…どういうこと!!?」


ガタッと大きな音を立てて女帝さんが立ち上げる。
そういえば那智琉さんっていう人とは女帝さんが一番仲が良いんだ。
だからこそ自分達も彼女と知り合った。
(いや、正確には凪良も知っているみたいだったが)
女帝さんの驚き方は予想以上だったのだけど、二人の仲を考えれば頷ける。


―でも、何故彼女は泣きそうにまで成っているのだ


―そんなの自分は知らない


「貴方達っていうか本当は私と…まぁ瑠璃もなんだけどプログラムに選ばれちゃってさ。でも私はあんまり廃人っていうの?そういうのとは関係ないからこうやって説明係する代わりに免除みたいでさ。」
「…そう…なんだ。」
「まぁ後はMCに皆を集めたり、色々瑠璃と一緒に手を回したりしたけど。楽なものだったよ。」
「私達を…裏切ったんだ。」
「裏切ったなんて人聞きの悪い。どっちかって言うと売ったって感じかな。まぁ人間自分の命が一番大事なんだよ。」


彼女の言う言葉は至極当然で。
俺のぼうっとした頭でも容易く理解出来た。
女帝さんはしばらく突っ立ったまま、無言で椅子に座りなおす。
ガタンっと大きく椅子が揺れる音がすれば那智琉さんは口を開いた。
彼女の口から出てくる言葉は現実味なんか帯びていなくて。
ただただ、頭で言葉を捕らえた。


「っと…まぁこんな感じ。人数も少ないから禁止エリアとかも無しで。まぁ半径三キロメートルって小さい島だからね。全部で24時間。放送は今が丁度零時だから十二時に一度だけ。ちなみに放送の担当は瑠璃だからお楽しみに。」
「信じられない…」
「まぁOVAの言葉も当然だね。私もまだあんまり実感ないもん。あっ心配しなくてもお墓とかはちゃんと作るしお葬式もやってあげるから。華南のお墓には薔薇も供えてあげるよ。」
「で、那智琉さん。ルールはそれだけでなん?」
「ミジンコ君ってばもしかして乗り気?」
「ミジンコなんて懐かしいあだ名で呼ぶなや!?」


少年が喚く、それを那智琉さんがからかう。
そんな中俺は周りを見回した。
一番後ろの俺の席からは皆の状態がよく分かる。
えすこは俯いていた。
OVAは指にはまった指輪を外したりはめたりと落ち着きがない。
女帝さんは空ろな目で那智琉さんを見ていたし。
クライムは…新人が邪魔で見えないけど。
ささめはカタカタと震えていて。
少年は実感がないのかいつもと変わらなかった。
新人はやはり首が気になるらしくて、そわそわしている。
凪良も少年と同じくいつもと変わらず。
廃ぽはやはりささめのことが気になるのかそっちばかりを見ていた。
俺はというと、どうなんだろう。
少年や凪良さんと同じような状態なんだと思う。


「そこで追加ルールです。私と瑠璃が頑張って政府の皆さんにお願いしました。」
「追加ルール?ややこしいのは止めてや?」
「大丈夫、馬鹿はぽでも分かるって誰かが言ってた。なんと首輪がある言葉を言うと取れます。ちなみにこれがラッキーワード。これは一人ずつ違うんだよ。」
「じゃあそれさえ見つければ殺しあう必要なんて…!!」
「ただし、バッドワードっていうのもあるの。これを言うと首輪が爆発します。これもラッキワードと同じく一人ずつ違って…まぁだから手当たり次第知ってる言葉言っていこうっていうのは止めた方が良いと思う。」



説明はそれから少しだけ続いて、ようやく少しずつだけど実感が出始めた。
そんな中、凪良と女帝さんだけが小さく笑みを浮かべていた。
選ばなくてはいけない。
心のどこかでそう思った。
(何を選ぶのかは分からなかったが)



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