神田

「犠牲があるから救いがあるんだよ。」それは彼女の口癖だった。ミシェルは不思議な女でどんな人でも助けようとしたが、その反面助けられないと判断したものはすぐに見捨てた。だけど助けられなかった人の事を何時までも悔やみ続ける。(今思えばその遣り切れなさを悪魔にぶつけていたのかもしれない。)しかしミシェルは悪魔と戦うことすら嫌がっていた。悪魔を破壊すれば悪魔という犠牲が出る。犠牲を何よりも嫌がった。だけど悪魔を破壊しなければ無力な人間達は殺され、教団の中にも被害が出る。悪魔に囚われた魂も救済出来ない。悪魔を破壊することが死者への一番の供養だということは彼女自身も分かっていたはずなのに、彼女は悪魔の破壊を嫌った。


だから彼女は泣きそうな声で笑うのだ。そしていつものあの言葉を。ミシェルの言う犠牲は人間達でも悪魔でも仲間でもない。ミシェル自身が犠牲だったのだ。自分の心を犠牲にして悪魔を破壊し、人々を助ける。それがミシェルの犠牲だったのだろう。今になってそれが分かった。もっと早くに気づけば良かったなど思ってしまう自分がいる。


「神田君、残念だったね。」
「あぁ。」


目の前には大きな黒い棺。中に居たのは一人の女。灰となって消えてしまう彼女の姿を目に留めた。払うには大き過ぎる犠牲。一体この犠牲で何人が救われたのだろう。少なくとも、彼女自身は救われたに違いない。もう誰も殺さずに済む、傷つかずに済む。


「犠牲があるから救いがあるんだ。」


小さな声で呟いた。目の前にいる彼女の口癖を。




メシアを捧げる